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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)580号 判決 1984年6月20日

本籍

東京都昭島市東町一丁目九六番地

住居

同 都立川市富士見町一丁目三一番一八号

不動産賃貸業

榎本喜助

明治四四年四月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官三谷紘出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処する。

二  被告人において右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

三  この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都立川市富士見町一丁目三一番一八号において貸家・アパートの賃貸業を営むかたわら、商品先物取引を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、商品取引清算益にかかる収入を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五五年分の実際総所得金額が三億二九三〇万九〇五六円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年三月一六日、東京都立川市高松町二丁目二六番一二号所在の所轄立川税務署において、同税務署長に対し、同五五年分の総所得金額が七八五万七六四〇円でこれに対する所得税額が一四七万四〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五九年押第六八三号の一)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二億三三二〇万五一〇〇円と右申告税額との差額二億三一七三万一一〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五六年分の実際総所得金額が四七三七万八九二三円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月一五日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が九五六万四七九八円でこれに対する所得税額が二二三万円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五九年押第六八三号の二)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二三一九万六〇〇円と右申告税額との差額二〇九六万六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書 三通

一  松田忠雄及び横田昌人の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1. 定期預金利息調査書

2. 商品取引益調査書

3. 接待交際費調査書

4. 交通費調査書

5. 通信費調査書

6. 雑費調査書

7. 榎本やま所得調査書

8. 源泉所得税調査書

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の支払利息調査書

一  押収してある所得税の確定申告書(昭和五五年分)二袋(昭和五九年押第六八三号の一、同押号の三)及び青色申告決算書(昭和五五年分)一袋(昭和五九年押第六八三号の五)

判示第二の事実につき

一  信託収益分配金調査書

一  押収してある所得税の確定申告書(昭和五六年分)二袋(昭和五九年押第六八三号の二、同押号の四)及び青色申告決算書(昭和五六年分)一袋(昭和五九年押第六八三号の六)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一、二項に、裁判時においては改正後の所得税法二三八条一、二項にそれぞれ該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、同第二の所為は改正後の所得税法二三八条一、二項に該当するので、以上につき所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を併科するが、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、罰金刑については同法四八条二項により所定の罰金の合算額の範囲内で、被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処し、被告人において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の事情)

本件は、不動産賃貸業を営むかたわら商品先物取引を行っていた被告人が、他人名義で取引を行うなどの方法により商品取引清算益にかかる収入を除外し、昭和五五年及び同五六年の二年間の所得税をほ脱していたという事案であるが、ほ脱額は合計二億五二六九万一七〇〇円と巨額である上、ほ脱率も昭和五五年が九九・三七パーセント、同五六年が九〇・三八パーセントに達しており、いずれも高率である。また本件犯行は、商品取引清算益の収入については過去の損失の分が税金面で全く考慮してもらえないため、損をした時のことを考えて利益を蓄積する目的で行われたものであって、一般に商品先物取引が投機性の高い取引であって、年により所得の変動が大きい反面、税制上損益通算や損失の繰越控除などの手当てがないことから、過去の損失を考慮して利益を調整したいとの心情については、これを理解できないわけではないが、本件において被告人は、過去の損失を補なってあまりある多額の収入を得ていたのであるから、その収入のすべてを除外することについては特段斟酌に値するものはなく、犯行態様も自己の名前を一切使用せず、原島利夫ほか七名の取引口座に分散して取引を行っていたものであり、被告人が自己の名前を使用しなかった主たる目的は、取引の内容を妻に知られたくないとの動機に出たものではあっても、右のように多数の他人名義の取引口座を利用したことと相俟って所得秘匿の目的もあったものと認められるから、本件は単なる虚偽過少申告にとどまらず事前の所得秘匿行為を伴ったものというべく、被告人の刑事責任は厳しく追及されなければならぬものがあると言わなければならない。しかし、被告人は本件犯行発覚後は素直に事実を認め、進んで査察に協力して本件脱税の全ぼうを明らかにし、捜査・公判を通じてその態度を維持していること、ほ脱所得に関し修正申告のうえ本税、延滞税、重加算税を含めて完納し、これに伴う住民税についても納付ずみであること、被告人は本件商品取引清算益にかかる収入以外についてはこれまで真面目に納税してきたものであることが窺われるが、本件を機に更に真面目に納税することを誓うなど反省悔悟していること、被告人には前科前歴もないこと、その他被告人の健康状態、年齢等斟酌すべき諸事情も存するのでこれらを総合勘案し、主文のとおり量刑する。

(求刑懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示)

別紙(一) 修正損益計算書

榎本喜助

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

榎本喜助

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(三)

税額計算書

55年分

<省略>

(注)(10)の控除額合計は正規の合計額757,800円より600円少なくなっているが、これは申告時の計算誤謬によるものである。

資産所得合算のあん分税額計算

55年分

<省略>

別紙(四)

税額計算書

56年分

<省略>

資産所得合算のあん分税額計算

56年分

<省略>

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